大手飲料メーカーに長年勤め、身体を壊して五十代で退職したある男性は、妻の故郷である山梨の農村で第二の人生を始めることになった。妻の実家はながめのよい山腹にあった。最初はそのまま住もうと考えていたのだが、妻の祖父が建てたというその家はすでに築七十年を超えていて、純和風の間取りも現実の生活を考えると暮らしにくそうである。彼らは建て替えを決断した。ところが解体を始めて驚いた。大黒柱も梁も、最近では手に入らないすばらしい木材ばかりなのである。
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なかには、その家で使われる前に、どこか別の屋敷で使われていたらしい梁もあった。仕口などにはっきり痕跡が残っている。「立派なマツの梁なんですよ。あの梁を見た瞬間、先祖に出会ったような気がしました。大黒柱は備州ヒノキだそうですが、僕たちが見ていたのはただの材木ではない。日本人の歴史であり、宝だったんです。絶対に捨ててはいけないと思いました」。